テレワークで難儀する協調に活かす『つきあい方の科学』と題した1冊
生活のさまざまな場面から国内外の政治・経済や自然界の現象まで、とかく不安定に感じられる世相を受けてか「協調」による利益の最大化もしくは最適化があらためて注目されています。
20年以上も前に、出版され。「協調の本質」を科学的な視点と実験から解き明かした、ゲーム理論をと入り入れた進化生物学の「古典」ともいわれている1冊をご紹介いたします。
『つきあい方の科学 バクテリアから国際関係まで』(R.アクセルロッド 著 松田裕之 訳 ミネルバ書房刊)です。
この書にはさまざまな「対立」の場面で活かされる「協調」の手法が、実験を続け検証を重ねたうえで詳細に記されています。大きな結論的な手法の一つに、「協調を優先する人間が集まるネットワークに、協調を目的として入る」というものがあります。
なぜ「協調」を手段にしないで、目的にするかというと。相手に対して自分からは「裏切らない」ことを大前提としたうえで、いつかは手放すことを想定した「道具」としてではなくいつまでも保持し続ける「行動理念」として「協調」に生きる(生存する)ことと捉えるからです。
著者のアクセルロッドは、協調関係は進化するとしています。
協調関係が進化するためには、各人がつきあいを続ける機会が十分にあって、今後の両者の利害関係に関心を持つことが必要である。もしこれが本当なら、協調関係は3つの段階をたどって進化して行くだろう。と、アクセルロッドは記しています。
その第三段階目を次のように、氏は仮定しています。
互恵主義にもとづく協調関係がひとたび足場を築いてしまうと、協調的ではない戦略の侵入を阻止できる。つまり、この社会進化の歯車には、逆行止め(ラチエット)がついているのである。
少し抽象的に過ぎるので、具体的な「協調の手法」を一つご紹介します。
相手に裏切られたらすぐに報復し、相手が意趣返しをせず反省してきたら快く受け入れる。『しっぺ返し』の協調的な効用についてです。
『しっぺ返し』が利益を得るのは、自分の態度のわかりやすさのためである。とし、自分の方から裏切りを始めることはなく、相手の裏切りには即座に報復し、心が広く、相手に対してわかりやすい行動をとったことであると。アクセルロッドは、記述します。
上品にしていれば無用なトラブルを避けることができ、即座の報復は相手に対して裏切りたいという誘惑を断ち切らせ、心の広さは協調しあう関係を回復するのに役立つ。そして、態度のわかりやすさによって、相手が自分を理解してくれて、長い協調関係をもたらすのである。
ゲーム理論では、つにね中心の話題となる「囚人のジレンマ」。アクセルロッドは心理学、経済学、政治学、数学および社会学と5つの分野から「囚人のジレンマ」に関する論文を発表したことのある研究者を集め、同じ土俵で、共通のコンピュータ言語を使いプログラム選手権を開催し検証を重ねます。
するとゲームが終わりに近づくまで互いに協調しあった参加プログラムが、軒並み高得点を獲得。協調から入る「上品な」規則どうしのプログラムによる試合が、両者で高い得点を分け合うカタチになったと記します。
なにごとも「協調」から入る人間が集まるネットワークに「協調を持って」入ることが、より多くの利益を得るための心掛けであることは一面において間違いなさそうです。
この1冊。詳しく読み込むと、自分が送る実生活のシーンからさまざまな疑問も湧いてくる。そんな、実践的な書籍となっています。
ぜひ巣ごもり読書の1点にお加えいただきまして、ご自宅で行うテレワークでの「協調」に活かしていただけたらと存じます。
オーダースーツ アスター店主
sebiro-aster.com